テレクラナンパでお持ち帰り

朝5時まで営業している居酒屋チェーン店で、山口さんは中生、女は生グレープフルーツハイを注文した。本当に申し訳なさそうな顔で山口さんはつぶやく。

「ゴメン、実はボク××って名前じゃないんだ。本当は山口っていうんだ」
「えっ、それってどういうことですか?」
「いやぁ、なんかボクってこういうのに慣れてなくてさ、ホント、ゴメン」
「じゃあ……」
「実はボクさ、前にテレクラで少しコワい目にあってね。警戒してるってわけじゃないんだけどさ。でも今日はキミのね、その電話中の淋しそうな声がなんかすっごく気になって……だから勇気ふりしぼって来てみたらさ、やっぱ少し辛そうにしてるじゃない?。…‥なんか切なくなってギュツってしたくなっちゃったんだけれど、ははは、やっぱそうなんだよなあ」
「・・・・・・・・・・・・」
「それじゃあ、あらためて自己紹介するね。ボクはね、山口っていうの。日本橋にある某清涼飲料水メーカーで営業やってるんだけれど、今度ここら辺の担当になったんだよね。あれ?もしかしてキミも名前変えてたりして?ナンチテ~」
「フフ、そんなことないですよ。あ、じゃあわたしもあらためまして初めまして。わたし、電話で言ったとおりユミ子っていいます。山口さんておもしろいヒトですね。それになんかとっても優しそうというか安心できるって感じ……」
ここで山口さんは、はじめてこの子の名前をゲットしたわけである。

ここまで相手の名前を知らないまま、適当に会話をやり過ごす能力が必要となるわけだ。かといって日ごろカミさんを「おい」とか「ねえ」とか呼んでいるからって、その話術が通用するわけじゃないので注意しよう。そして山口さんは話し続ける。

「最近ハヤりの『癒し系』ってヤツかい?あはは、そんなの自分で言うなって?でもそういう風に言われても男にとっちゃあんまり嬉しくないんだよね。だけれど、キミの心を癒せるならそれでいいかな。ホント全部包んじゃうぞ(と、軽く彼女の両肩に夕ッチ)。でもさあ、さっき電話でも聞いたけどさ、ユミちゃんも彼氏関係で辛い思いいっぱいしてるんだねえ」
よくもまあ次から次へとこんなべ夕なインチキトークを続けられるもんだね、このデブは!しかもオメーが女口説いてる飲み屋って「白木屋」じゃねえかよ。テレクラ 貴方に

なにセコく安く撃げようとしてんだよ。せめて「Jyu」くらい行けよ!え?なんだって?「Jyu」は高いくせに混んでて店に入るのに10分20分待ちは当たり前だから女の子がジレちゃってヘタすりゃ逃げられちまうって?
そうか、それもそうだな。いやスマン。って納得している場合じゃないか。

でもさあ、こいつのトークのインチキ加減の話に戻るけど、最後の「彼氏関係で辛い思いしてる」の部分なんて完全なカマかけじゃねえか。違ってたらどうするつもりなんだろう。っていうオレのツッコミはおいといて、とりあえず彼女へむけたとびきりの笑顔を崩さないでいる山口さん。
彼女も少しホツとした様子で適当に頷いている。しばらく二人は飲んで食ってしゃべってイイ感じに出来上がると、南池袋公園前のミント(ラブホの名前)にフラフラと消えていったのだった……。クーッ!ここまで聞いてオレはふと思った。
結局山口さんのやっていることって、やっばただのナンパと大差ないんじゃないか?っていうかまるきりナンパじゃん?この疑間を山口さんにぶつけると、かれは少し残念そうに笑ってオレを見た。そして語る。
「そりゃ全然違うでしよ。いい?油揚げはすでにお膳に乗っかっているわけですよ。テレクラでべしゃった女が待ち合わせ場所に来たってことは、当然むこうはヤル気十分でそこに立ってるわけよ。いや『勃ってる』のは僕のほうですけどネ、ウフフ」
オイ!ウフフじゃねえよ。だからナニ?
「まあ、実際に会うまでにこぎ着けたどっかのヤローの努力には申し訳ないと思うけどね」でも敬意は払ってねえよなあ。結局横取りだもんなあ。
「当然お互いに初対面でしよ?その後どうこうなるってのはこっちのトークの腕と相手の女の出方次第なんだよね。顔も見たこともない人間同士がさ、そりゃあとくに女のほうは不安で一杯だよねえ。そんな2人がこれからセックスまでしちゃおうってんですよ。そこで問題となるのは、もうフィーりング以外の何物でもないんですよね?え?根本的な『声の違い』とかはどうするのかって?アンタ相変わらずバカですねえ。
そんなの少しも重要じゃないでしょ。必要なのはその女の前で見せる男の甲斐性がすべてじゃないですか!もちろんあっさりと断られたり気持ち悪がられたりした時もありますよ。
飲んで終わりってパターンもしよっちゅうですってば。
でもそこで怯んだり諦めちゃダメなんですよ。これはハンティング、つまり『狩り』なんですからね。それも人の獲物を横取りするという最上級の!」
なんだ、その「男の甲斐性」って?それがキンタマがデカイってことなのか?
全然意味がわかんねえよ。
電話と会った時の声が違うなんて、いくらでもゴマかしがきくってのか?つまり山口さんにとって、実際にテレクラでアポ取ったヤツ以上に目一杯女の子に尽くして楽しんでもらうことが喜びであって、それでその男の代わりにオイシく頂いちゃうことが究極の目的なのか?
それが最上級の「狩り」だと。たしかにそれってわからないでもないが、そんなに肯定もしたくない。やっぱ鬼畜だよなあってオレは思うけど、キミたちはどうよ?
「うんじゃまあそんなところでいいよ、あとはどうでもで好きに解釈してくれ、もういいよね」と面倒臭そうに山口さんは言った。
「だってねえ、ボクだって最初は勘違いからはじまったんだ。テレクラで運良くアボ取って待ち合わせしてたら、全然違う女が本当に勘違いで声かけてきてさ、でもなんかいい感じだったんでそのままノりでその日食っちゃった事があるんだよ。後ろめたいと思ったのはほんの一瞬だけ、あとはめくるめく快感につながるんだってば。そうだよ、だからアンタも一回くらい勇気を出してやってごらんよ」
いや、オレはやっぱやめておきますわ。と言いかけたとき、山口さんの携帯が鳴った。
「どのオンナっすか?」
山口さんはニヤりと笑った……。

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